第3章 手を伸ばせば届く距離
「だから、ありがとう、ハジメ。私、日本に来て良かった。ハジメと出逢えて良かった。」
「月菜…。」
いつもヘラヘラと笑って、自分勝手な奴だと思ってた。けど、自分の弱さや辛さを隠し乍、月菜は努力していた。
「頑張ったな。」
そう言って月菜の頭を撫でると、月菜は笑った。
「ハジメもね。ハジメのバレーはこれで最後じゃないよ。ハジメなら、もっと頑張れるから。私、応援してる。」
あの試合が、俺のバレーの最後のようなつもりでいた。無論、大学でもバレーは続けるつもりでいたが、自身のバレーの終わりだと感じてしまっていた節があった。だから、月菜の言葉に強く励まされた。
「お前に会えて良かった。」
鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をした月菜。
「なんだよ、その顔は。」
月菜がいつも俺に向けてくれる気持ち。それを月菜と同じように向けたつもりだった。
「私もだよ、ハジメ。」
いつもの元気いっぱいの笑顔と違う、優しい微笑みに、初めて、お互いの気持ちが重なった気がした。俺が自分の気持ちに素直になって手を伸ばせば、月菜は手の届く距離にいる。そう思い、手を伸ばした。
「岩ちゃーん!バス来たよー!って、あれ、月菜ちゃん来てたんだ?」
月菜に伸ばした手を慌てて下げた。
「月菜ちゃんもバス乗ってく?」
「ううん、大丈夫。私も車待たせてるから。」
及川が来たせいで、周りの視線が及川に集まり、その中から、あれってLunaじゃない?と声が上がった。
「私、行くね!」
サングラスをかけ、月菜は足早にその場を去って行った。