第1章 運命を変える出逢い
色んな店を見て周り、満足したのか、やっとベンチに腰を下ろした月菜は徐ろに口を開いた。
「私ね、日本に来たらパパとママが出逢ったっていう東京、見てまわりたかったのよね。ずっとアメリカに住んでたし、日本に来る機会なんて無いって思ってたの。なのにアイツらってば本当頭堅い!」
アイツらというのは、恐らく月菜を追い掛けていた奴らの事だろう。その口振りからして、追い掛けて来た奴らとは知り合いなのだと分かった。
「お前、悪い奴に追われてるって言ってたじゃねえか?知り合いなのか?」
「私に意地悪する悪い奴よ。」
先程購入したドーナツを口にすると、美味しいと、幸せそうな笑みを浮かべた。
「折角日本に来たのに、仕事、仕事って本当嫌になっちゃう。」
「お前、仕事が嫌で逃げ出したのかよ?」
「そうよ。」
ベンチに腰掛ける月菜の手を握った。
「…戻るぞ。」
「なんで!?私、まだ行きたい所あるもん!戻らない!」
「あのな、仕事を途中で放り出すなんて、どう考えたってお前が悪い。」
理由を知らなかったとは言え、仕事を手助けをしてしまった事を深く反省した。
「仕事を放り出したお前を追い掛けてくる奴がいるってことは、それだけお前が必要とされてるって事だ。その人達の期待を裏切るのはいけねえ事だろう。なんの仕事してるのかは知らねえけど、仕事で日本に来たんだろ?ならちゃんとやれ。」
そこまで言ってハッとした。初対面。しかも、仕事をしてるって事は恐らく年上。そんな奴相手にいきなり説教なんて、相手もいい気はしないだろう。それに逃げ出したなら逃げ出したでそれなりに理由がある筈だ。