第2章 天才シンガー
列に唯一並ばなかった京谷にも半ば強引にCDを握らせ、満足気に微笑む月菜。
「あれ?月菜ちゃん岩ちゃんの分は?」
「ハジメには無い!」
「なんでだよ!?」
思わず本音が漏れた。慌てて口元を抑えるが、それはバッチリ全員に聞こえてたみたいで、及川がムカつく笑みを浮かべこっちを見てたから取り敢えず殴った。
月菜の歌はどちらかと言えば好きな方だし、貰えるならCDを貰いたかったってのが本音だった。つーか、コイツ俺の事好きだ何だとか言いつつ俺の分は無いとか嫌がらせかよ。まあ、今まで邪険に扱ってた訳だし、月菜の気持ちが俺に向かなくなってもまあ、おかしくは無い。けど、自分一人仲間外れにされたようなこの感じは気分のいいものじゃ無かった。
「ハジメには特別。ちょっと屈んで。」
「あ?なんでだよ?」
「いいから、いいから。」
月菜の身長に合わせ、少しだけ屈むと、俺の耳元で小さな声で歌い始めた月菜。初めて聴く旋律。真っ直ぐで透き通った歌声。まるで違う世界にいるような感覚。音楽の授業で何度も耳にした筈の生の月菜の歌声。なのに、いつも教室で聴いてる歌声と違うと感じるのは、それが月菜の歌だからなのか分からなかったが、何かが満たされていくような、不思議な感覚だった。
「どう?」
「…おう。」
及川のように気の利いた感想なんて言葉に出来なくて、ただ素っ気なく返事をしただけなのに、それに満足気に微笑む月菜。耳が熱い。