第2章 天才シンガー
追い掛けてくる記者を撒いた所で足を止めた。記者を撒くために月菜のペースなんか考えず走ったせいか、月菜は肩で息をし、両手を膝について、辛そうだった。
「悪い、大丈夫か?」
顔を上げると、笑顔を浮かべる月菜。
「もう、ハジメかっこ良すぎ…!王子様みたい!」
言われなれない…というか、初めて向けられるその言葉。王子様っていうのは、いつも及川が言われている言葉で、そういった煌びやかな単語を掛けられる事はなかったから、なんだかそれが気恥しくもあり、面白くもあった。
二人で顔を見合わせ笑った。
「あーあ。ハジメと居るとなんか色々すっ飛んじゃう。」
「俺だってお前といると迷惑ばっか掛けられて大変だっての。」
「ごめんね。」
「こういうのは及川で慣れてるし、自分から首を突っ込んだんだから月菜が謝る事じゃねえよ。」
「ハジメのそういう所、凄く好き。」
「…そうかよ。」
いつもみたく、冗談のように言ってくれたなら、俺だっていつもの調子で返せたのに、やけに真剣そうにそう言った月菜に、なんて返していいか分からなかった。月菜と出逢ってから振り回されてばっかりだ。けど、最初程迷惑と思わなくなったのは、月菜の人柄のせいもあるのかもしんねえ。