第2章 天才シンガー
「…何やってんだよ?」
学校が終わり、ロードワーク中、いつもなら真っ先に帰宅する月菜が、塀の上に登っていた。植え込みに隠れていたようだが、目立つその髪色や派手な容姿、嫌でも目に付いた。
「しー!」
そう言って口元に人差し指を当てた月菜。小声で再び何してんだと尋ねると、いつもならすぐに迎えに来る筈のマネージャーが迎えに来ず、報道陣に追い回され、学校から出れずにいたらしい。どうにか自力で帰ろうとしたらしいが、正門にも裏門にも待ち伏せされ困っていた所らしく、塀を乗り越え外に出ようとしたらしいが、高い塀に登ったはいいが降りれなくなったらしい。
「…猫かよ。」
「ハジメ、部活中でしょ?私の事はいいから行って。」
そうは言っても見てしまった以上、このまま放置して行く訳にはいかねえし。そう思い、月菜に向かって両手を広げた。
「抱きとめてやるから飛び降りてこい。」
「ダメだよ!そんな事したら目立っちゃう!」
そう言って飛び降りてこようとしない月菜。
「Lunaいたか?」
「いや、まだ校内に残ってる筈だ!」
そんな声が聞こえてきた。
「ほら、とっととしねえと、こっちに来るぞ!そこにいたらどっちにしろ見つかんだろうが!」
「ダメ!ハジメに迷惑かけちゃう!私、ハジメに嫌われたくない!」
「今更何言ってんだよ。お前が俺に迷惑掛けてんのは出会った時からだろうが。今更変に遠慮なんかしてんじゃねえよ。月菜、来い!」
それを聞いて決心がついたのか、月菜は俺の胸に飛び込んできた。それを受け止めた所をバッチリ記者に見られた。
「Luna!」
最近は出待ちの記者の数も随分減ってきてたのに、今日に限って転校初日と同じ位いやがる。
「行くぞ月菜!」
初めて月菜と出逢ったあの日のように、俺は月菜の手を引いて走り出した。