第2章 天才シンガー
月菜が転校してきてから出来た楽しみが一つだけあった。それは音楽の授業。同じ歌でも、月菜がそれを歌えば、その歌声に誰もが魅了された。普段は五月蝿いし、正直迷惑な存在と思う月菜だが、この時間ばかりは月菜がこのクラスに来た事を良かったと思った。プロの生の歌声を授業中に聴ける俺らは相当ラッキーだと思う。他のクラスや学年の連中は休み時間に月菜の姿を見る事は出来ても、こればっかりは聴けねえからな。
「ハジメ、どうだった?」
歌い終われば感想を求め、俺に引っ付く月菜。それさえ無ければ素直に褒められたかもしれないのに、どうもこの月菜のリアクションが及川と被って、引っ付くな、だとか、離れろ、とか、そう言った言葉を掛けてしまう。他の連中と同じように、褒めてやる事が出来たら良かったが、多分俺がその言葉を口にすれば月菜は調子に乗る。それは普段の反応からして、言わずとも簡単に予測出来てしまう。