第2章 天才シンガー
明るく陽気な性格の月菜。芸能人という事もあってか、すぐにクラスに溶け込んだ。転校してきて間もないっていうのに、クラスは月菜中心で回ってると言っても過言ではない。そんな月菜からのアタックは最早クラスの名物となっていて、最初の頃はクラスメイトの男子はそれを面白くなさそうに見て、俺に対し不満の声を漏らしていたが、日常へと溶け込んだそれを今は皆が笑って見ている。
他のクラスや学年の連中が月菜見たさに休み時間の度に教室を訪れるのも、それが何時しか当たり前になっていた。そんな連中に月菜は笑顔で手を振り、握手を求められれば握手をし、サインを求められればそれに応える。芸能人つーのも大変だな。なんて他人事のように見ていたが、それは幼馴染みの及川とよく似ていて、見慣れた光景でもあった。まあ、及川は芸能人じゃねーけど。
「毎日、毎日疲れねーのか?」
休み時間が終わりに近付き、月菜を尋ねて来た連中に手を振る月菜に思わずそう聞いた。芸能人とは言っても一人の人間で、笑いたくない時だってあるだろうし。でも月菜は転校して来てからいつも笑顔で、疲れた素振りも見せねえ。だから少し気になった。あの及川でさえ、俺の前では色々思い老ける事もある位だ。芸能人の月菜なら尚更だろう。
「私の事が気になるの?」
「どう聞いたらそうなんだよ。」
「ハジメが私に興味持ってくれるなんて嬉しいな。ハジメ、大好き!」
「バカ!くっつくな!」
抱き着いてきた月菜を引っぺがす。コイツは何時になったら俺に飽きるんだ?
「大好きなハジメと一緒にいれるんだもん。私、今が一番幸せだもん。」
「…そうかよ。」
他人から好意を寄せられる事自体は悪い気はしない。だから、いつも真っ直ぐな月菜の言葉は時折俺の心にズシンと響く。だからと言って、俺が月菜を好きだとかそういうのじゃねえ。