第2章 天才シンガー
翌朝テレビをつければ、ニュースはLunaの話題で持ち切りだった。それからもLunaという歌手がどれだけ注目を集めているかよく分かった。東京ではなく、宮城に編入したのは、先日の生放送の歌番組で告白をした〝ハジメ〟という人物が関わっているのではないかという報道に、飲んでいた牛乳を吹き出した。汚いわねえと母親にそう言われ、自身が吹きこぼした牛乳を拭き、残った朝飯を大急ぎで口に詰め込み家を出た。八月下旬、外は朝から陽射しが強く、じんわりと汗が滲んだ。
朝練を終え、校舎へと向かうと、昨日同様沢山の報道陣が正門にいた。それを掻き分け登校してきた月菜と目が合った。それに及川が月菜ちゃんおはようと手を振ると、月菜は手を振り返しはしたが、こっちに寄ってくる気配はなく、向けられるマイクに笑顔で返答していた。てっきり昨日みたく飛び付いてくると思っていたのに、寄ってくる気配すらなく、なんだか拍子抜けだった。が、校舎へ入り、教室へ向かうべく階段を上っていると、ドンという衝撃が走った。
「おはよう、ハジメ!」
「月菜ちゃんおはよう。朝から元気だね。それ、岩ちゃんにじゃなくて俺にして欲しいんだけど。」
「トオル、おはよう。ごめんね、これはハジメ限定なの。」
「重てえ!離れろ!」
「ちょっと岩ちゃん。女の子に向かって重たいは無いでしょう。」
「Is it weight of the love?(愛の重さかしら?)」
それが何を意味しているか理解は出来なかったが、どうせろくでもない事だろうと思った。