第1章 泣かないで…僕の愛しい人(蒼井)
〈彩花side〉
「ごめんね…あんなに彼のこと思っていたのに……僕のせいで……」
翔太くんは謝りながら下を向いている。
『……翔太くん、謝らないで?あたし、ほんとは知ってたんだ。彼に二股をかけられてるの……でも、好きだから言えなかった……言えずにいたの……』
あたしはずっと前から彼が二股をかけていることを知っていた。
それを知ったのは数ヵ月前、友達の奈都と買い物をしていたときだった。
ちょうど反対側の歩道をあたしじゃない女の子と歩いていた。それもあたしなんかよりもきれいな子だった。
あたしが俯くとふいに甘い香りと温もりがする。
気がつくとあたしは翔太くんに抱き締められていたんだ。
「ごめん……そんな風に辛そうにしている彩花を見ているのは嫌だ…弱味に漬け込むようだけど聞いてほしいんだ」
あたしは小さくうなずくと翔太くんはベンチに座り話し出した。
「僕は彩花とは8才離れてるでしょ?」
『うん…あたしは翔太くんのあとをくっついて歩いてたよね。』
小さい頃はよく翔太くんの後ろをくっついて歩いていたらしく、夜寝るときでも翔太お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ寝ないとワガママを言ってお母さんたちを困らせていたらしい。
「……たぶん、彩花が中学に上がった頃からかな?彩花のことを1人の女の子として見ていたんだ……ずっとずっと、彩花が好きだよ」
『え?翔……太くん……?』
今、翔太くんは、何て言ったのだろう……
「これからは僕が彩花の隣にいたい……」
『翔太くん……』
翔太くんの声からは優しさやあたしを本当に好きだという気持ちが含まれている、そんな気がした。
『翔太くん、あたしね?すぐには彼を忘れることはできないかもしれない。でも、それ以上に翔太くんが好きなんだって気づいたよ。だから、あたしを翔太くんのそばに居させてください……』
あたしはうつむきながら翔太くんにそう伝えた。小さい頃、あたしにとって初恋の相手だった翔太くんに…今、翔太くんはどんな表情をしているのだろう…そう考えていると甘い香りがした。
彼を見上げると今にも泣きそうな顔で、でもすごく嬉しそうな表情をして「もちろんだよ!」と言ってくれた。