第2章 豪邸と少女
「……」
「おい団長、こいつ…」
「ああ、この屋敷の前に立った時からずっと気になっていたんだ。ほぼ全員念能力者の気配、その中で一つだけあった
一般人の気配。こいつだったんだ。」
「なんで一般人がこんなに固められた扉で守られてるんだ?」
「わからないな。しばらくこいつを調べてみようと思う。」
「……」
少女はゆっくり瞬きした。
何が起きたかわからない、という感じだ。
「……」
口を開くが音がない。
「声、出ないのか?」
少女は、髪の毛をふわふわさせながら縦に首を振った。
「こいつ相当やばくねえか?」
「念によってか、それとも精神的な疾患か。」
「?」
少女は首をかしげた。
「名前は?」
クロロがあまりにもその少女に興味を抱いているため、ウボォーギンは横から言葉を入れる隙を無くしてしまった。
殺さなくていいのか?
野暮な質問しようとしたな、と己の心で一人反省をする。
少女は手首にかかっている布をすっと肘まで上げる。
手首には鉄の腕輪がしてあった。無機質な装飾もない、その少女の細い手首にはあまりにも大きくてごつい腕輪だ。
そこに名前が刻まれていた。
「ルル、か。」
「…」
首を縦に振り、肯定の意味を示す。
「おい…団長?」
「ん?」
「そいつ、小脇に抱えて…まさか…」
「ああ、しばらく俺が飼うことにする。色々気になるしな。」
そう言い残し、背広を翻しながら元来た道を歩いた。
もうこの豪邸に生きた人の気配はしなかった。
いつもの見知った連中も、すでに倉庫内の物を盗り、ホームへと帰ったのだろう。
入ってきた時と同じ窓の方角を目指し、巨漢と青年は出て行った。
窓ガラスを踏むと、ジャリッという音がした。
少女は、大きな屋敷を見上げてふと思う。
ここが、自分の家だった場所。もう帰ることはないであろう場所、と。