第8章 携帯と少女 裏
帰ると、居間がしん、と静まり返っていた。
シャルの気配はするが居間にいない。
俺の部屋か…、と背広をソファーにかけて落ち着こうとした。
俺の部屋?
「ルルっ!」
何故か不安になって、部屋の中に飛び込んだ。
「はあ…っ。」
ルルがキスの合間にする吐息が聞こえ、二人の影が重なっているのが見えた。
気付かないうちに恐ろしく殺気立てていたんだろう。
ルルは気付かなかったみたいだが、彼女に覆いかぶさろうと筋肉を僅かに動かしたシャルがすぐにそれをやめた。
「ご飯、美味しいって言ってくれて、ありがとう。」
声が少し震えているシャルが部屋から出て、奴の影で俺が見えなかったのか、ルルがようやく、
「くろろさん、おかえりなさい!」
と口パクで言ってベッドから身を乗り出して抱きしめてくれた。
ルルに裏切られたという気持ちが大きくて、抱きしめてくれた瞬間腕を突き放そうとしてしまった。
それをぐっと抑えて、抱きしめ返す。
「ああ、ただいま…。」
複雑な気持ち。鼻を掠めるルルの香りで段々と気持ちが和らいでいくのがわかった。
でもまだどこか子供みたいに駄々をこねている自分自身。
拗ねたように、
「シャルと何してたんだ?」
と聞いてしまった。
口にしてからようやく、やってしまった…という後悔の念に押しつぶされそうになる。
ルルは何を言っているのかわからない、と首を傾げた。
「さっき、俺といつもしていることしていただろう?」
「う、うん…。くろろさん、おこってる?」
ルルは怪訝そうな顔をして、俺の目を見てゆっくり口を動かした。
にや、っと笑って頷くと、「なんで?」と聞かれてしまった。
嗚呼、俺の不備じゃないか。そうだ。簡単なことだ。
彼女は挨拶のようにシャルにも接していたのだ。
俺はそういえば言ってなかったな、
「俺と以外、誰とも何もするな。」
ルルは、一瞬、なんで?という顔をしたが、
「くろろさんがそうしてっていうなら、そうする。」
と笑顔で返事をしてくれた。