第4章 躾と少女
そういえばルルの服を箪笥から一通り抜いてくればよかったと思ったのは、
風呂から上がってすぐだった。
仕方なく、自分の新品のYシャツを貸す。
小柄で細い彼女にとっては、膝上まで隠すワンピースのようだった。
「明日、マチに買い物付き合ってもらえ。」
首を縦に振り、返事をする。
部屋に戻ると、もう既に料理が来て食卓が整えられていた。
美味しそうな匂いにふらふらと顔を近づけるルル。
「たらふく食え。」
と言った瞬間、彼女は野菜と海鮮の美しいオードブルに素手でつかみかかろうとしていた。
「ちょっと待て!」
思わず大きな声を張り上げる。
そう、さっき静かに決心したばかりだ。こいつの躾をすると…!
ルルは手を顔の前に持ってきたままのポーズで硬直した。
初めて聞いたクロロの大きな声にびっくりしたようだった。
「これがフォーク、こっちがナイフだ。」
彼女の語彙力はあまりにも低すぎる。ひとまず、単語から教える。
そして、今現在テーブルを挟んで対面しているが、自分の膝に乗るように促した。
ルルは特に拒否することもなく、クロロの膝の上に、ちょこん、と座った。
「じゃあまず、俺の手の動きを観ろ。」
言われるがまま、フォークとナイフの使い方を観て、目に焼き付けていく。
クロロは、フォークで海鮮と野菜をパスタ生地で巻いた美しい円形の食べ物を、抑え、
右手に握っているナイフでやさしく切って一口の大きさにし、フォークで華麗に口元に運び食べる。
そして、自分で持ってみろ、と言い、両の手の食器を膝元にいる彼女に渡す。
ルルは観たとおりを真似してみるが、なかなか上手く切れなかった。
「最初だから、綺麗に切ろうと思うな。食器を使うということに慣れろ。」
そう言われると、きょとんという表情をし、少し形が崩れてしまったオードブルを切って、食べた。
「!!!!」
初めて口にしたパン以外の食べ物。
あまりにも美味しく、楽しく、味覚を知った喜びを噛みしめ、もぐもぐとひたすらその食べ物を噛んだ。
「美味しいか?」
美味しい、という言葉がこういうことなのか、と一瞬確認したようにうなずき、次は心からの気持ちで、
「美味しい!」とうなずいた。もちろん言葉に出ることはなかったが。