第5章 ~一ノ瀬トキヤの場合~
「い、いえ、別に…!」
慌てて顔を背ける私に
「そうですか…。」
と、短くて素っ気ない返事が帰ってきた。
「そういえば、なぜ一人で街に居たのですか?」
一ノ瀬さんは淡々とした口調で尋ねた。
「ちょっと、パートナーに頼まれて…。
曲作りの資料集めに来ました!
…迷子になってしまいましたけど…。」
恥ずかしさを誤魔化すように笑うと、
「全く…。それならそうと声を掛けてくだされば、案内したというのに…。」
一ノ瀬さんも小さく笑って言った。
その綺麗な笑みと、優しい言葉に胸がドキンと鳴る。
「じゃぁまた今度、案内してください!」
「分かりました。 次は迷子にならないように、しっかりと見ていますからね…?」
片想いの相手と約束出来たことが嬉しくて、思わず笑みがこぼれる。
今、この時だけは、“迷子になって良かった”って思った。
私の片想いの色は…広くて落ち着きのある、夜空のような紫色でしたー。