第3章 心の風景
その大きな赤い門は、まるで異世界の入り口のようだった。忍と描かれた丸い看板も、木ノ葉の印が彫られた瓦も、思っていたよりずっと大きい。
あんぐりと扉を見上げる牡丹の横を、小さな子どもたちが駆け抜けて行く。アカデミーの生徒だろう。小さな背中が、次々とその赤い門に吸い込まれて行く。大きく深呼吸をして、牡丹は子どもたちの背中に向かって歩き出した。
集団教育に縁のなかった牡丹にとって、その光景は真新しく、そして眩しく見えた。彼らはここで、知識や友を得て、成長するのだろう。自宅に講師を招いて身につけた学識を無駄とは呼べないが、大切な過程をも省いてしまったような気がしていた。
「お待ちしてましたよ!」
教職員用に用意された部屋に向かう途中、鼻に大きな傷跡のある忍に声をかけられた。アカデミーで教鞭を執っているのだという。
「今は、座学が必要な生徒を持っていまして、通常の業務からは遠退いていますが、何でも相談してくださいね」
そう笑う彼は、今日まで牡丹が接してきた忍の中で、誰よりも飛び切りの笑顔を見せた。記憶にある限りの忍たち、カカシや暗部の面々を思い浮かべても、似つかわしくない。
「それは…今まで牡丹さんの周りにいた忍は、本当に一握りの人間です。大半は、もっと普通なんですよ」