第2章 ぬくもりの分け方
襖の大穴から流れ出る女の恨み言は、どこに向けられているのか。焦点の合わない目は牡丹を通り越し、その奥を見ているようだった。
「お前さえいなければ、火影様は私のものに…」
辛うじて聞き取れたその欲望に、牡丹は眉を顰めた。狙いは自分か、それともカカシか。
「私を亡き者にして、あなたが妻の座に就くということですね」
女の影がゆらりと傾ぐ。どこか遠くを見ていたその目が、牡丹を捉えて、嫉妬の感情を露わにした。燃えるような妬みの視線に、牡丹は恐怖を覚える。この女が忍ならば、戦って敵う相手ではないのだ。
しかし怯んではならない。木ノ葉隠れの里で暮らしていくのならば、武力に限らなくとも、戦う力がなければ、一生日陰者だ。牡丹は震える両手を握りしめた。
「あなたが私よりも妻に相応しいと思うのなら…大名を黙らせ、内戦を調停し、里をより繁栄させるというのなら、それでも構いません。私を殺しなさい!」
最後は、殆ど叫び声に近かった。
女の瞳孔が開き、焼け爛れた扉から差し出されたその手が、牡丹の喉元を掴もうとしたその時。
「ハイそこまで」
牡丹の瞳が写したのは、ふわりと揺れる銀髪と、猫のような背中だった。