第38章 キスという手段
また、溜め息を吐いている。
咄嗟に口を塞いでやろうと顔を近付けたけど、今度は避けられてしまった。
「…りら、アレの中身、何か分かってるんでしょ?」
「分かってるから、あぁいう話になる。」
「それで、君の答えは?中途半端な状態にしておいて、キス出来るとか無神経だと思わないワケ?」
「蛍だってしてきた。」
「僕は、君が求めている事をしてるだけ。君は、溜め息を止める為デショ。僕が求めてるのは、キスじゃなくて返事だよ。」
ズキりと、心臓が痛む。
答えはイエスだけど、まだ伝えていないから、申し訳ないと思った。
でも、今の状況で謝罪を口にしたら取り返しが付かない事になるのは分かる。
「…イエスノーの答えを求めるなら、ちゃんと口に出して申し込んで。」
「何言ってるの?わざわざ、ノーの返事貰う為に言うと思ってる?」
「ノーとは言ってない。蛍から逃げる気は、ない。傍に居たいのは、隣に立ちたいのは、蛍だけ。」
ちゃんと答えを求めて貰わないと、私は返事をする事が出来ない。
だから、応じる事を匂わせて言葉を促した。
「僕は、きとりさんが戻るまでなんて、待てないからね。」
「分かってる。」
含ませたものには気付いてくれたようで、蛍の口角が上がっている。
「分かった上で、さっきの言葉なら、アレ、君にあげるよ。」
視線で示された、床の上にある小さな紙袋。
本当は、蛍に渡して欲しかったけど、素直じゃない彼がやる筈もない。
無い物ねだりはしない事にして、紙袋を拾い上げた。
「有難う。喜んで、受け取らせて頂きます。」
笑って返したつもりだったのに、目から雫が落ちる。
泣きたい訳じゃないのに、涙が止まらない。
いつも通り、蛍が止めてくれると思ったけど。
「嬉し涙は、止める必要ないデショ。」
こんな事を言って、してくれなかった。
私の方は、ただキスがしたくて、唇を掠める程度に奪う。
「溜め息吐いてないんだけど?」
「私がしたかったからじゃ、駄目?」
「ダメじゃないよ。手段としてされるよりは、ずっといいんじゃない?」
返ってきたのは、相変わらず素直じゃない言葉と。
手段としてじゃなく、ただ求めてくれるキスだった。
‐end.‐