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第34章 episode0<epilogue>


クロが私の胸元に花束を押し付けてくる。
何に迷っているかを分かっているような、全てを見透かしているような眼で私を見下ろしていた。

「…俺な、彼女選ぶ基準がずっと‘センパイを大切にする俺を分かってくれる人’なんだよ。
りらに惚れた時期もあったが、それもセンパイを許せる女だからってのデカかったしな。」

この話を最後まで聞きたいから、まだ花は受け取らない。
真っ向から告白するなんて慣れてないだろうクロに、ちょっとした意地悪だ。

「俺の中心は、ずっとセンパイだった。もう、わざわざアンタを許せる女なんか、探さなくて良いだろ?約束の日が過ぎて、俺も30になったぜ?」

知ってる。
今月の中旬、クロの誕生日で30になった事くらい分かってる。

それでも花束を受け取らないのは、言わせたい言葉があるから。

でも、ただ待っても言ってくれそうにない。

「…鉄朗。アンタに、ただいま、って言わせてくれる?」

自分から仕掛けて、花束に手を添える。
受け取る意思はあると、分かって貰えるように。

「この家できとりサンの帰りを待ってるよ。これからは、俺がずっと傍にいる。」

センパイ、クロ、そう呼び合う関係が終わる。
私が望んだ通りの言葉が聞けた。

鉄朗の手から離れた花束が私の手の中に残る。

「きとりサン。俺のものになって下さい。」

言葉で出された、ダーズンローズの意味。
答えは、勿論決まっていた。

「はい。宜しくお願いします。」

私達から始めた家族ごっこが、本物になる。
次いだのは、言葉じゃなくて。

お付き合いを始めた時と同じ、少し上から降ってきたキスだった。







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