• テキストサイズ

【HQ】sharing.

第33章 episode0


正直、迷っていた。
両親がいなくなって、ただ広いだけの家を遺されても困った。
一人じゃそんなスペース使わないし、なにより人のいない広い空間は淋しく感じた。

家を売る覚悟をして、不動産屋を訪ねた。
その中に見覚えのある顔。

黒尾鉄朗。
高校時代の後輩だった。

何やら独り暮らしを始めるようで、幾つかの物件の資料を受け取っていた。
話を終えて席から立った彼と目が合う。

向こうも私が知り合いと気付いたようで、胡散臭い笑顔を振り撒いて近寄ってきた。

「熊野センパイ、お久し振りです。」
「久し振り、クローくん。」

昔から、クロオの‘オ’を上手く発音出来なくて伸ばして呼んでいた。
そう呼ぶ度に彼は、カラスじゃないですよ、なんて笑ってた。
今回もそんな調子で、なんとなく昔話に花を咲かせていた。

「…センパイ、独り暮らしでも?」
「いや、私は家を売る方。両親が事故でちょっと、ね。一人には広すぎる家で。」

少し会話が途切れた隙間。
不動産屋に来ているんだから当たり前のような質問。
上手く笑顔が作れたかは分からない。
思った通り私は微妙な顔をしていたようで、彼は私から目を逸らした。
/ 577ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp