第23章 仲直り
こっちで話を聞いている内に勝負は終わったようで、私の両隣は木兎さんと黒尾さん。
優勝は木兎さんだったと聞いて、両手に勝ったのかと感心さえした。
「…んで、取り合えず何飲むー?」
各自座るときとりちゃんがメニューを開く。
普通の飲み会をする空気になっていて、どうすれば良いか分からなくなった。
店員を呼んで口々に注文する様を見ていて、纏めて頼んであげてよ、なんて仕事側の気持ちになってしまう。
結局、私は何も頼まなかった。
その筈なのに、運ばれてきたドリンクを回していると、私の目の前には有り得ないものが置かれている。
うん、確かにウーロンハイよく飲んでるよ、焼酎好きだし。
私が頼まなかったから、誰かが気を遣って頼んだんだろう事も分かるよ。
だからってピッチャーはないんじゃないかい。
そりゃ、全部飲めるし、おかわり出来る許容量はあるけど、直接飲めとは言わないよね。
「熊野。ほら。」
「木葉クン、りらはそれくらい飲めるわよ。」
前に座っている木葉さんが、取り分け用のグラスを差し出してくれたけど、きとりちゃんに却下された。
私がアルコールに強いのを知らないからなのか、心配そうな顔をしている。
「大丈夫です。…これなら、おかわり出来ます。」
きとりちゃんの前でグラスに分けようものなら、何か言われるのは目に見えていた。
安心させようと言った言葉で、木葉さんが若干引いたのが分かる。
そりゃ、学生ノリじゃあるまいし、酔っている訳でもない一杯目から、ピッチャー直接をしかも女がやるなんて引いて当たり前だ。
「じゃ、カンパーイ。」
きとりちゃんの明るい声で宴が始まる。
皆はグラスを掲げたり、軽く当てていたけど私のは重くて出来ない。
意地でも取り分けずに飲みきると決めて、両手でピッチャーを持った。