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第2章 明くる日


口紅は油性ペンを落とす乳化剤を含んでいる。
説明するより、やった方が早い。

口紅を開けて中身を指先に塗ると、赤葦さんの顔に手を伸ばした。

更に悪戯でもすると思ったのか顔を引かれる。
面倒だけど説明をしようと口を開きかけた時、黒尾さんが赤葦さんの後ろに回り込んだ。

面白い事でもすると思ったんだろうか。
赤葦さんの体に腕を回して動きを止めた黒尾さんは悪戯坊主のように笑っている。

それを幸いとして指先に付いている口紅を落書きの鯰ヒゲに塗り込んだ。
ポケットからティッシュを取り出して口紅を塗り込んだ場所を拭き取る。

「顔、洗ってきて下さい。」

指先に残った口紅を拭き取りながら言うと、黒尾さんから逃れた赤葦さんはすぐにリビングから出ていった。

「私も落書きに加担した事、言わないんですか。」
「言ったら一緒に起きてたのバレんだろ。」

家主代理をやる口実の為なら自分ばかり怒られても良いと言うのだろうか。

「お前がココにいればセンパイが安心するからな。」

成程、この人は私の為というよりもきとりちゃんの為に動いているんだ。

恋人、なんだろうか。
聞いて良いものなのかは分からない。

「センパイとは、まぁ一時期深い仲だったモンで、な。あの人の大事なモン、一緒に大事にしてやりたいんだよ。勿論、お前の事も。」

気になる顔でもしていたんだろう。
聞かずとも説明してくれた。
‘元’恋人か。
一緒に暮らしているって事は喧嘩別れした訳じゃないらしい。

2人の事情は分からないけど、深く突っ込んでも理解出来る事じゃなさそうだ。

そんな話をしている内に赤葦さんが戻ってきて、未だに眠る3人を起こす作業に入った。
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