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白花曼珠沙華【刀剣乱舞】

第1章 朝焼けの声


「…そう言えば燭台切、先程用があると言っておりましたがこの後何か?」
「あぁ、大したことじゃないんだけどね。皆が集まる前に食事を届けなきゃならなくて。」
「食事を?」
「そう、主の分をね。早くしないといいのは取られちゃうから。」

驚きを隠しきれなかった。

突然の、主という言葉。
久方ぶりにその言葉を耳にした気がする。
それくらい、ここの者達は己の主を、審神者を無いものとする。

まさか、この本丸にぬしさまと関わりのあるものが居るとは。

「…あ、いや、届けると言っても、実際に主の元へ届けるのは僕じゃない。ここには式神がいるだろう?いつも受け取りに来る式神がいてね。それに渡すと持って行ってくれるんだ。」
「そう、でしたか…。」

いくら姿を見せないとしても、ぬしさまがこの屋敷に居る事には代わりない。
ならば、人として食事をせねば審神者とて生きてはゆけぬこともまた確か。

今まで姿どころかその気配すら見せなかった主が、この本丸のどこかに居るのだ。
燭台切の言葉が、主の存在が確かなものなのだと伝える。
共に過ごしているのだと言われたかの様だ。


今も、この屋敷のどこかに、ぬしさまがいる。

小さく胸が高鳴った気がした。

「あ、ほら、あれだよ。」

燭台切が指差す方へと視線をやれば黒い髪の綺麗な、可愛らしいおかっぱ頭の式神が近付いてきた。

「こうやって、盆に乗せた食事を持たせると勝手に持って行ってくれるんだ。」

初めて見た式神だった。
顔付きこそ可愛らしいものの、全くの無表情で準備している燭台切を待つ。
そして渡された食事を手にすれば先程と同様、音もなく来た道を帰って行った。

私は式神が角を曲がり見えなくなるまで、静かな長い廊下を見ていた。


「…小狐丸は、どう思う。」
「、…どう、と言いますと?」

突然の問に思わず狼狽える。
なんて分りやすい動揺だっただろうか。

「実は、こうして僕が食事を用意している事を知っているのはごく僅かなんだ。一緒に食事の準備を手伝ってくれる者達以外、知らない事だ。」
「…私は、…、」

なんと言ったらいいか、分からなかった。

燭台切の質問の意図が読めない。


「まぁ、無理に答えなくていいよ。…僕もよく分からない。しばらくすれば空になった器だけが帰ってくるだけだからね。……さて、僕達も食べようか。今日は寒いからとん汁だよ。」
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