第2章 開かれぬ扉
ドクドクの心臓が波打つのは、何故か。
先程の苛立ちを上から塗り潰すかのような複雑な感情が私を支配する。
それは決して、喜ばしい事ではないという事が分かる。
良い悪い等という、簡単な気持ちではなかった。
もっと奥深く、己すら知らない心の底を掻き回されるかのような、酷く、ドロドロとした感情だ。
怒りですらない、寧ろ、恐怖に近い何か。
「、仮に本当だとして、何故御主が……」
震える声で言葉を繋ぐ。
私の様子に目を細目ながら見る鶴丸に己の感情を誤魔化す余裕はない。
「……さぁ、何でだろうな。強いて言うなら、お前の気持ちを知っておきたかったからか。」
「そんなものを知って、何になるというのじゃ……」
「なぁに、深い理由なんて無い。何なら忘れてくれて良い。三日月にとってその方が良いだろう。」
「、鶴丸よ……御主が何を考えているのか見当がつかぬ。いつもの悪ふざけなら勘弁してくれぬか。」
「悪ふざけに見えるのか?」
おどけた様子でニヤニヤと口元へ弧を描かせては相も変わらず言葉の真意を読ませぬ瞳にはぁ、と溜め息が漏れる。
それは呆れたからではない、この場の空気に耐えられなくなったからだ。
「それが分からぬから言っておるのだ……なぁ、鶴丸よ。一体御主は私に何をさせたいというのじゃ。」
「なんだ、何かしてくれるのか?」
「違うわ、阿呆。」
「なぁに、お前の反応を楽しんでるだけだ。」
本日何度目かの溜め息が漏れる。
「いい加減からかうのは止してくれぬか……」
「俺は本気なんだがなぁ……」
やめてくれ。
三日月が私をその様に想っているなどと冗談でさえ考えたくない。
決して、嫌いな訳ではない。
同じ三条として、共に日々を過ごす相手、そして戦友として過ごして来たつもりであった。
それは良い意味で淡白で、お互い深く関わりすぎぬ仲であったと思いたい。
この本丸では、皆そうでは無かったのか?
まさか私だけが、冷たく色の無い場所であると思い込んでいたのか……?
「……なぁ、小狐丸。そろそろ良いんじゃないのか?」
「、何のことじゃ……」
「なにって、お前自身の事だ。」
嫌に真剣な面持ちで、真っ直ぐに己を見る鶴丸に息を飲んだ。