第9章 DAY4 黒き反省
セスの声色が低く響いた。
「…ほんとは……この後も、俺がずっとあそこに行きたいくらいだ…誰にも渡したくねぇし、見せたくもねぇ…」
「………」
「………」
先ほどまで臨戦態勢だったフェンリルとルカが、完全に戦う気をなくして黙りこんだ。
しばし沈黙が流れ
その沈黙を破ったのはレイだった。
「セス…アリスは怯えていなかったか?」
「……わかんないわよ…最後はそのまま気絶して眠っちゃって…」
レイは溜め息をついて続ける。
「……彼女が黒の軍に対して恐怖を感じてしまった場合、黒の軍の幹部を最終的な「主人」に選ぶことが難しくなってくる。
彼女が赤の軍に入ってしまうと、あいつらの思うつぼだ。それだけは避けたい」
「…わかってるわよ……」
セスの表情は苦しげだ。
「チャンスはシリウスと俺、それから最後に選ばれる誰か…そしてそのあとの『昼間』だ」
それは幹部全員に向けられた言葉だった。
続けてレイはフェンリルとルカの方を向く。
「フェンリルとルカから見て、アリスはセスの心が狂うほどの相手なのか」
フェンリルはセスの方を一瞬見て答える。
「……正直言うと、セスの気持ちは分からなくもねえよ…俺だって一番最初に見た瞬間から可愛いって思ったし…」
「ルカはどうだ」
「……優しい、人だと思う…守ってあげたい」
レイは少し考え込むように黙ると、すっと立ち上がった。
「シリウス」
「ん、何だ」
「……今夜は俺と交替してくれ」
「!」
そこにいる全員が驚き目を見開く。
「黒のキングとして、きちんとアリスに謝罪する」
「レイ……」
セスは申し訳なさそうな顔をしている。
「セスが気にすることじゃない。そもそもこの儀式自体がアリスを深く傷つけている」
レイは再びシリウスを見やる。
「……いいか、シリウス」
「もちろんだ、キングに従う」
レイは力強くうなづいた。
「話はこれで終わりだ、解散」
幹部たちがそれぞれ部屋を出ていく。
座りながら考え込むレイの元にフェンリルがやってきた。
「どーするつもりだよ、相棒」
「……今夜はアリスを抱かねぇ」
「!」
驚くフェンリルにレイが笑んで続けた。
「…俺は『使える』からいらねーんだ、アリスの力は」