第9章 DAY4 黒き反省
夜中のうちに止んだ雨は
明け方のクレイドルを霧に包んでいた。
視界の悪いその道を
月小屋へ向かう馬の音があった。
(ん……?)
その馬に乗る人物…ヨナは
月小屋の前に馬がつながれているのを確認した。
(もう朝なのに…黒の軍はまだ中にいるのか…)
中にいる相手が誰だか確認ができないうえに
月小屋の期間中は争いごとは厳禁だ。
万が一戦闘になったとしても負ける気はしなかったが
無駄な接触を避けたかったため、少し離れたところで一度止まった。
しばらくすると、月小屋から誰かが出てくる気配がした。
(……あれは…)
ヨナは気配を消すのを忘れ、手綱を僅かに握り締めた。
中から出てきたセスが、自分の馬に乗ると
「なぁーにコソコソ見てんのよぉ…赤のクイーン」
セスはヨナの存在に気付き、背中を向けたまま言った。
「……朝迎えに来るのは赤の軍の役目だ。そっちこそこんな時間まで長居して一体どういうつもり?」
「あらぁ…今まで何してたか気になるのぉ?野暮なこと聞くのね…赤のクイーンって」
馬に乗ったセスがヨナのところまでやってくる。
「…昨日まで来ていたそっちの幹部たちは朝まで居残るようなはしたない行動はしていなかったようだけど?」
「そりゃあそうよ…フェンリルとルカは『お子様』だものねぇ…」
「何っ…ルカが……!」
ヨナの顔色が変わる。
「当たり前でしょお?ルカだって幹部だもの。それに……男なのよ?」
「……ルカが…!」
どこかでルカは断るのではないかと淡い期待をしていたヨナは、既に行われていた事実にショックを受ける。
「ルカもうまくやったみたいよ?まぁ……アタシはもの足りないから、『最後まで』お付き合いしてもらったけどね。おかげでこんな時間よぉ」
ヨナの、射るような鋭い視線がセスに向けられる。
「……彼女をこんな時間までいたぶっていたのか」
「言い方気をつけなさいよ、クイーン。『教えてあげて』いたの。男の身体を」
耐えきれなくなったヨナが腰元のサーベルに手を掛ける。
と、同時にセスがサバイバルナイフの柄を捉える。
「それ以上、剣抜くなよ?レイアのここまでの『努力』が全て無駄になるってこと、クイーンなら分かるよなぁ?」
セスの声色が低くなる。