第1章 月小屋の宴、開幕す。
「この宴の期間中、ルールを破った人間の属する軍にはペナルティが課せられます。
また、アリスが何らかの理由で逃亡、続行不可能な状況になった場合は、その時点で開戦を宣言します」
(………え??)
「あの…ちょっと待って、ブランさ…」
ブランはレイアの話を遮るように
微笑みながら人差し指をすっと唇の前で立てる。
「…大丈夫、後でゆっくりと…丁寧に教えますからね」
そう告げたブランの瞳は
優しさの奥に何か蟲惑的な色を宿していた。
「…細かいルールはもう皆さんご存じだと思いますから割愛しますね。それではさっそくコイントスを行います」
にっこり微笑むと
ブランは懐から一枚のコインを取りだした。
そして
星の瞬く夜空にそのコインを弾き投げると
落ちた瞬間に手でそのコインを覆った。
「両軍キング、前へ」
ブランの合図で
赤の軍からは「ランスロット」と呼ばれた金髪の男性が
黒の軍も手前に座っていた無表情な黒髪の男性が
立ち上がり一歩前へ出た。
「どちらを選びますか?」
ブランの問いかけに、先に口を開いたのはランスロットの方だった。
「…黒のキングよ。好きな方を選べ」
二人は目を合わせない。
「………」
黒のキング、と呼ばれた男は
一瞬レイアの方を見やり、そしてブランを見る。
「…こーいうの、あんま好きじゃねーんだけど」
「仕方ありません、慣例ですから…レイ?」
黒のキング…レイと呼ばれた男は
ふうっと長い溜息をついた後、答えた。
「裏」
「…ランスロットは表でも?」
「構わん」
ブランはそっと覆っていた手を上にあげた。
「………裏、だね」
会場が一瞬どよめく。
ブランは会場に向かって咳払いを一つした。
「ただ今のコイントスによって、『月小屋の宴』主人は黒の軍を先攻とします。終了までレイアは日中、赤の軍の兵舎で生活します」
ブランの言葉に、そこにいる者は皆それぞれ思い思いの表情を浮かべていた。
レイアはどの人物が誰なのかも分からないので
ただただ目を泳がせていた。
「今宵は『イントロダクション』…明朝、レイアを赤の軍・兵舎に僕がお送りします」
そう言って、ブランはうやうやしくお辞儀した。