第1章 月小屋の宴、開幕す。
何が何だか分からない、といった表情のレイアに
ブランは優しく微笑む。
「大丈夫。今あなたに危害を加える人物はいませんよ。そして、ここにいる両軍は敵同士ですが、ここは中立のテーブル…ここで戦闘にはなりません。安心を」
そう告げながら、レイアの頬を指でそっと撫でた。
「んっ……」
突然のことに、レイアは少し頬を染めた。
ブランはレイアの顔を見て満足げに頷くと
再び両軍の対峙する方へ視線を向けた。
「ここにいるレイアは、異世界から来たかつての『アリス』と同じです」
その言葉を聞いた瞬間
そこにいる全ての人間の顔色が変わった。
「……本当か」
赤の軍、と呼ばれた方にいる、金髪の男性…ひと際威厳を放つその男が呟いた。
「ええ、ランスロット。真実です」
レイアは、自分の存在がここにいる全員の顔色を変えるような存在だということに
改めて不安を感じた。
「このタイミングで『アリス』が来てくれたことは何かの奇跡なのでしょう。よって……慣例に従い、『月小屋の宴』を開催いたします」
(月小屋?宴??)
ブランはそのまま続ける。
「月小屋の宴のルールにより、コイントスによって赤、黒、どちらが先攻かを決定します。
先攻を勝ち取った軍が『月小屋の主人』となり、
後攻の軍がアリスを…レイアの身柄を預かり身辺の世話をすることになります」
レイアは全く意味が分からなかった。
しかしそこにいる両軍の幹部たちは、全てを知っているようだった。
(いったい…どういうことなの?)
月小屋…レイアの住む世界で「月小屋」と言えば
女性の「月のもの」の期間中は穢れているとされ、隔離するために用意された部屋や小屋のことだ。
それも農村や田舎の方に残っている風習で、
レイアは別に隔離されたことなど一度もない。
(でも宴ってことは…この世界では意味が違うのかな)
ブランは説明を続ける。
「月小屋の主人は、僕の『イントロダクション』の後6日間担当します。その後、後攻の軍に主人が交替し6日間担当した後、レイアに『真の主人』を選定してもらいます」
(主人?選定…?誰が選ぶって…?)
レイアに焦りに似た感情が芽生える。