第32章 last 4d【黒への招待】
翌朝。
黒の橋まで見送ると聞かないヨナを半ば強引に振り切り、ゼロが手配してくれた馬車に乗ってレイアは赤の兵舎を出発した。
よく晴れたクレイドルは雲ひとつない真っ青な空だ。
黒の兵舎前に降り立つと、以前と変わらずシリウス自慢の花々が美しく咲き誇っている。
「あ、レイアさん!」
黒の兵舎の門番が挨拶をする。
「こんにちは!」
「すぐキングたちに知らせてきますね!」
門番の一人が中へ向かおうとすると
「その必要はないわよー?」
後方から声が聞こえてきた。
「……セスさん!」
「やーーーん!アリスちゃーーん!!!」
セスさんは光の速さで駆け寄りレイアの身体をきつく抱き締めた。
「んもぉーー会いたかったのよぉ?赤の兵舎に行ったままもう会えないかと思ったわー?」
「んんっ……セスさ……くるし…」
「やーんごめんなさい!アタシったら怪力だからつい……!とにかくみんな待ってるから、早く行きましょ?」
セスはレイアの肩を抱くと密着したままレイアを兵舎へエスコートした。
談話室には幹部の面々がレイアのことを待ち構えていた。
「よぉーーー!!レイア!久しぶりだなぁー!」
そう声をかけたフェンリルが速攻でレイアからセスを引き剥がす。
「ちょ……ちょっとぉー!」
セスが不満げな声をもらす。
「………レイア…それは…?」
ルカが訝しげにレイアの手にある魚に目をやる。
「あ…えっとね……これお土産…」
照れくさそうに魚を差し出すレイアに、レイがふっと笑んで歩み寄る。
「…お前……手土産のセンス独特な」
「ちがっ……これはその……」
レイはレイアの頭にぽん、と手をやり魚を受け取ると
「ルカ、ディナーに一品足せるか?」
「もちろん……任せて」
ルカはそのままキッチンへと向かう。
そのルカと入れ替わりでシリウスがやってくる。
「ほらお前ら、寄ってたかって囲んだらお嬢ちゃんが困るだろう?全員座れ?……お茶の時間だ」
久々にレイアのいる黒の談話室は、まるで花が咲いたように、皆嬉しそうに明るく和やかな空気になっていた。