第4章 1st Night 【フェンリル・ゴッドスピード】※R-18
日が傾き始めた頃
赤の兵舎前に用意された馬車には
レイアとヨナが乗り込んだ。
「この俺に送ってもらうなんて、滅多にないことなんだから、感謝しなよね」
揺られる馬車の中
ヨナは不遜な態度で言い放つ。
しかしレイアは
今夜のことが気がかりで
ヨナの態度のことはおろか、発言さえも
レイアの耳には殆ど届いていなかった。
「…ちょっと!!!聞いてるの?!」
「……え?」
「…赤のクイーンの言うことを聞き流すなんて、いい度胸してるね、君は……」
ヨナは腕を組み、不機嫌そうにため息をつく。
「ん…ごめん……」
曖昧な作り笑いを浮かべると
ヨナは急に顔を近づけてきた。
「え?」
ヨナの顔は真剣な顔だ。
「そんな変な笑顔、作らなくていい」
「……え、そんなに…変な顔してる?」
「違和感ありすぎだよ。この後のこと、不安でたまらないんでしょう?なら、俺の前でだけは嘘の表情なんて、作らなくていい」
「……うん」
レイアは弱々しく返事をして、窓の外に目をやった。
僅かにレイアの首筋が覗き、赤い花びらの散った痕がヨナの目に映る。
「ねぇ…それ」
「え?」
ヨナは眉をひそめてレイアの首筋を見やる。
「…ブランにやられたの?」
「…あ、うん…」
恥ずかしそうにレイアが俯くと
ふん、と不機嫌そうにヨナは鼻を鳴らす。
「…下品なウサギだな」
「ねぇ、ヨナ…これって」
レイアは首の痕を押さえながら、恐る恐る尋ねる。
「何」
「あの…こういうのついてるって、黒の軍の人に失礼かな」
「あのね…!君は一体何を考えているの!!」
ヨナは声を荒げる。
「黒の軍なんかに気を使う必要なんて一ミリもないし、理不尽な扱いを受けているのは君の方だろう?!そんな発想全く不要だ!そんなこと考えるなんて君はよっぽど馬鹿なんだね!!」
まくしたてるヨナに、レイアはあっけにとられる。
唖然とするレイアを見て我にかえったヨナは咳払いを一つすると
「…全く君は変わった子だな……大体俺ならそんなところに痕をつけるような下品な行為はしないけど」