第29章 13th Morning【ヨナ・クレメンス】※R-18
「ねぇー。変な臭い、するでしょー?ハール」
ガーデン下の公会堂。
赤い髪にオッドアイの青年が、にこにこしながら隣に立つ男性を見る。
「あぁ、ロキ。妙な加工をされた魔宝石が大量にある」
仮面をつけたハールと呼ばれたその男は、辺りを見回しながら答える。
「これって、もうすぐ爆発しちゃうのかな?」
公会堂の片隅に設置されていた怪しい光を放つ魔宝石をつまみ上げながら、ロキは呟く。
「今にも爆発しそうだな」
「ふふっ、じゃあ俺死んじゃうねー」
ロキはニコニコしながらハールを見上げた。
「で、どーするの?ハール…俺、幹部とかどーでもいいけど、アリスが死ぬのはやだな。あとセントラルの猫たちも助けたいなー」
「そうだな…」
ロキがつまみ上げた魔宝石を手に取り、ハールはガーデンへ続く階段を見つめた。
「クレイドルの掌握…」
ヨナが繰り返すように呟いた。
「黒の兵舎に念のためシリウスを残してきたが、状況を考えると……狙われる可能性は低そうだな」
「なぜそう言える?」
「今この状況になったら普通兵舎には誰も残さねぇ。お前ら赤と違って黒の兵舎には戦闘用としての魔宝石の備蓄もないからな…クレイドル掌握のために攻撃しても意味がない」
「………じゃあ…」
ヨナが懸命に答えを出そうとしている横で、レイはセスに信号弾を打つよう指示した。
「赤の兵舎が狙われることも考えられるってこと?」
「それはねーよ」
答えたのはカイルだった。
「黒が標的じゃないなら赤も標的にはならねぇ。やるなら両方同時のはずだ」
「……っ…」
ヨナは明らかに苛立ちを見せた。
(このままここで何もできないなんて……何かやれることないのかよ!)
「……ランスも戻ってこねーみたいだし、こっちも何が仕掛けられてるか分からない以上、動けねえからなー…じゃあ…」
カイルは少しわざとらしく聞こえるようにそう呟くと、苛立つヨナに視線を送った。
「……何だよ、カイル」
「……ヨナにしか頼めねーこと、いいか?」
「へ…?」
ヨナは目を見開き少し拍子抜けした顔を見せた。
カイルは手招きする。
「……これから公会堂の一室にレイアを移す。そっからお前に頼みてーんだけど……」