第19章 DAY9 奇襲
夕暮れ時、赤の兵舎前に黒の軍の使いが早馬でやってきた。
「アリスさんに関する緊急の伝令だ!至急幹部にお伝え願いたい!」
赤の兵舎・門番に書状が渡された。
「……一体何の騒ぎ?」
門番は、背後からやって来た人物に慌てて敬礼をした。
「これは、ヨナ様!」
「黒の軍から、急ぎの伝令だそうです。幹部の方へ、とのことです」
ヨナは黒の軍の封印かしてある書状を開き、中身に目を通すと
目の色を変えて兵舎へ走った。
「ランスロット様!」
ノックもなしに執務室へ飛び込んできたヨナに
ランスロットは僅かに眉根を寄せて顔を上げた。
「何だヨナ…騒々しい」
「……申し訳ありません我が主…たった今、黒の軍より早馬の伝令があり…
レイアが何者かの奇襲にあった、とのことです」
ランスロットが僅かに揺れた。
「……アリスは無事か」
「……はい…怪我はないとのことでしたが…」
ヨナは書状をランスロットに手渡した。
「………」
ランスロットは無表情のまま、書状の文に視線を走らせる。
「…月小屋の宴は続行できるようだな」
「……し、しかし…ランスロット様」
「何だ」
ランスロットの声は冷たさを含んでいた。
「……いえ、何でもありません」
ヨナは何を言っても無駄だと悟ったのか閉口した。
「予定通りエドガーを向かわせる。本来はあまり望ましくないが、黒の軍が朝迎えに来るまでエドガーは月小屋に待機させる」
「…わかりました」
「とにかくアリスが一人でいる時間を作らぬようにする…エドガーを呼べ」
ヨナはランスロットに敬礼すると、エドガーを呼ぶため執務室を後にした。
ランスロットは再び書状に目を落とす。
(おそらく…魔法学者だろうな)
思いを巡らせるように目を伏せる。
(アリスの力を得た幹部の……能力を無駄使いさせるつもりか…)
ほどなくしてドアがノックされ、エドガーが現れた。
「お呼びでしょうか、我が主」
「アリスが奇襲に遭った。念のためお前は早めに月小屋へ行き、黒の軍が迎えに来るまで月小屋に待機しろ」
「……かしこまりました」
少し驚きつつエドガーはうなづく。
「……それと、もうひとつ頼みがある」
ランスロットは声をひそめて続けた。