第6章 最終日、そして運命は非情に廻り始める
エースが島に来て4日が経った。
もう今日には島を出なくてはならない。黒ひげは次の島・バナロ島にいるそうだ。
「はいコレ」
リラはエースに一枚の紙切れを渡した。初日に預かっていた白ひげのビブルカードだ。
エースは素直に受け取り、代わりにまた一枚の紙を手渡した。
「……何、コレ」
「そいつァおれのビブルカードだ。持ってろ」
「なんで私に?」
自然と責めるような口調になってしまったリラに、エースは軽く笑った。
「そいつを持ってるのはお前以外には弟のルフィしかいねェんだ。特別っぽいだろ?」
特別。
その言葉の響きはリラの胸にじーんと染みた。
「ありがと。あなたが死なないように祈っておくわ」
「そりゃ冗談キツイぜ」
リラが笑うとエースも笑った。
「……もう行くの?」
リラが名残惜しく呟くと、エースはニッと笑った。
「安心しろ。おれは死なねェからよ」
「人間いつか死ぬわ」
「おれは死なねェよ。なんてったって白ひげ海賊団2番隊隊長だからな」
悪戯っ子のように笑うエースに、リラも思わず吹き出した。
「そうね。泣く子も黙る白ひげ海賊団2番隊隊長。せいぜい黒ひげに負けないことね」
「おれァ負けねェよ」
「どうだか」
軽口を叩き合い、リラは今度こそ別れを覚悟した。
「じゃあ……ね」
「おう、またな!」
さよなら、と言わないでくれた。再会を約束してくれた。それだけでとても嬉しい。
ふと、エースの顔がものすごく近くに来た。リラが固まっている隙にエースの唇がリラの唇に触れた。
触れるだけの、優しいキス。
「……ッ!?」
「はは、驚きすぎだろ。じゃ、またな!」
エースはしれっとした顔でストライダーに乗り込んだ。
遠ざかる白ひげ海賊団の刺青を入れた大きな背中。
なんで──私に触れたの。私のこと好きでもないくせに。そんな風に疑問が胸の中を渦巻いたけれど、リラは初めての人の温もりを──エースの温もりを思い出す。
やがて彼が見えなくなってからリラは呟いた。
「……好きだよ、エース」