第2章 Lv.7
人生は選択の連続だ。
朝、家を出るとき。
最初の一歩を右から踏みだすのか、左から踏みだすのか。
たったそれだけのことで、その先の人生が変わってしまうこともあるだろう。
ひとは多くの選択を経て、今を生きている。数えきれないくらいの分岐から無意識的に、あるいは、意識的に未来を選択しているのだ。
つい最近、人生における大きな二択を経たばかりの私にさえ、すぐにまたその瞬間は訪れる。
「うー…………ん」
私はまたも選択を迫られていた。
鉄朗さん考案の地獄の筋トレから解放されて、ようやく許可がでたシャワータイム。濃灰を基調としたバスルームでひとり、一本の剃刀と対峙する。
眼前のこれを使うべきか、否か。
ここは言うまでもなく鉄朗さんのお家であり、この男性用剃刀は鉄朗さんの所有物だ。
突然始まった同居生活。
女子力が低いと評判の芋女、こと、私のポーチにはもちろん剃刀なんて入ってない。
要するにだ。
私は悩んでいる。
鉄朗さんの髭剃りを借りてムダ毛処理をするのか、はたまたしないのか。
女の子にだって色々ある。
これは、死活問題である。
「……っせ、せめて、眉毛だけなら」
誰に言うでもなくごにょごにょと口を動かして、それからそっと剃刀に手を伸ばした。
瞬間、浮かぶ鉄朗さんの顔。
バレたら絶対超怒られる、んだけど、でもやっぱり眉毛生えっぱなしで彼の前に出ていく訳にもいかない。ので。
(必ず新しいの買って返します……!)
私はそう誓いつつ剃刀を手にとった。
「オイ! 芋女!」
バスルームの扉ごしに彼の怒声が聞こえたのは、私がまさに眉毛を剃ろうと刃を入れた、そんな瞬間のことだった。