第1章 Lv.5
とにもかくにもお腹が空いていた。
謂わばもう餓死寸前だ。
なんで、どうしてこんなことに。
往来の激しい道路にぽつねんと立ち尽くす。夢に溢れていたはずのトーキョー暮らしは、もはや生き地獄へと変貌を遂げていた。
やっとの思いで掴みとったダンサーの夢は露と消え、いや、ていうか所属するはずだった事務所が潰れちゃったんだけど、要するに私は現在無職である。
しかも、だ。
運命のイタズラか、私の不幸体質がなせる技なのか。
入居先のアパートが火事で焼け、住む場所まで失ってしまった。派遣のバイトをしながらのネカフェ暮らしも、そろそろ精神衛生的に限界。
もはや実家に帰るしか道はない。
一度はそう思った。
思った、のだけれども、尻尾を巻いて帰るわけにもいかないのが現実である。
実家の旅館を継げといって引かない両親。連日続いた大喧嘩の末、制止を振りきって決行した上京。
ひとりでも立派に生きていけます!
そんな大見得まで切って上京したのだから、これしきのことで帰るわけにはいかないのだ。
「……でも、お腹、空いたなあ」
ぐう、と胃のあたりで虫が鳴く。
少しだけ残ったお財布の中身は、帰省するのにギリギリの金額だ。最終電車にも、今ならまだ間に合う。
意地をとるか。
安寧をとるか。
迫られる人生の二択。
Mが特徴的なファストフード店の前、悶々と悩んでいた私に【運命】が声をかけてきたのは、このわずか数分後のことだった。