第3章 事件の日
「飲め。落ち着くだろう。」
「あ、ありがとうございます。」
カチャリ。と軽い音を立てて、リヴァイはアイリーンの前に美味しそうな香りを立たせる紅茶を置いた。
ふんわりと甘い香りが鼻をくすぐる。
「……二度目、ですね。紅茶を頂くの。」
小さな声で頂きます。と呟いてアイリーンはゆっくりと紅茶を啜った。
途端に身体に広がる暖かさ。
口に広がる甘味。
あんな事があった後だというのに、身体が解れて緊張が解けていくのが分かった。
「……やっぱり、美味しいですね。」
「当たり前だ。」
リヴァイはアイリーンの手当てに使った道具を纏めながら、当然だと言い切る。
その自信に、アイリーンは日常に戻ってきた感覚になり、思わず笑みが溢れる。
「……やっと笑ったな。」
「え? あ……すみません。ご迷惑をお掛けしました。」
一気に半分程飲み干したカップをソーサーに置き、アイリーンはリヴァイに頭を下げる。
傷の手当てだけでなく、気まで使わせてしまっていたことに、心から謝った。
だが、リヴァイは謝罪等気にもしていない素振りでソファから立ち上がると、そのまま書類が少し残っている机へと向かってしまった。
「それを飲んだら部屋まで送る。」
アイリーンを見もせず、背中を向けたままリヴァイは椅子に腰掛けて書類整理を始めてしまった。
「い、いやいやいや! ここまでお世話になったのに、部屋まで送るだなんて……! 申し訳ないです!」
「世話なんぞした覚えはねぇ。俺がしたい事をしただけだ。」
ペンを走らせながらそう言ったリヴァイは、ペンを手にしたままアイリーンへと向き直る。
その瞳はとても真剣で、アイリーンはその瞳から目が離せなくなる。
「……それでも一人で帰ると言うなら、帰れると俺に証明してからにしろ。」
「……っ」
リヴァイは、気づいている。
アイリーンはそう確信した。
アイリーン自身に何があったのか聞かないのは、きっと自分では聞けない事柄だと判断したからなのだろう。
それでも事柄が事柄だけに、一人にもしておけない。
リヴァイはアイリーンを気遣いながら、守ろうとしているのだ。