第3章 事件の日
それが分かった時、アイリーンは堪えきれず涙を流した。
泣くつもりはなかった。
それはリヴァイに迷惑を掛ける行為だと判断したから。
だが、きっとリヴァイは泣いても許してくれる。
優しく声を掛けて慰めたりはないだろうが、それでもよかった。
ただ自分の身を案じ、守ろうとしてくれる存在が身近に居たことに、アイリーン自身が安心したのだ。
静かに涙を流すアイリーンに、リヴァイはゆっくりとした足取りで近づいた。
ソファに座るアイリーンの横に同じように腰かけると、リヴァイは無言でアイリーンの背中を擦った。
「っ……す、すみません。私……」
「いい。泣いてろ。」
乱暴な言葉使いとは裏腹に、優しく擦るその手は確かにアイリーンの身体に染み込んでいった。
その後、アイリーンはゆっくりと先程の事を全て話した。
途中言葉を詰まらせながら、弱々しい声で話すアイリーンの声はきっと聞き取りずらかっただろう。
それでもアイリーンが話す間、相槌も、急かすことも、聞き返すこともせず、ただ背中を擦りながらリヴァイは黙って聞いていた。
全てを話終える頃には、アイリーンも泣き止んでいた。
「……あの、リヴァイさん。」
「なんだ。」
「その、ありがとうございました。」
ずっと背中にあった手を、自分の前に持ってきてアイリーンはぎゅっとその手を握りしめた。
自分よりもゴツゴツとした男らしい手。
私はこの手に救われたのだと思うと、とても愛しいもののように感じた。
「……送る。今日の事はハンジには俺から話しておく。ゆっくり休め。」
自分の手を握るアイリーンの頭をぽん、と一回優しく叩いて、リヴァイはその手を引っ張り立たせる。
リヴァイの言葉に素直に頷くアイリーンに、リヴァイは行くぞ。と繋がれた手はそのままに部屋を後にした。