第3章 事件の日
「ちょっと、痛い! 引っ張らないでよ!」
「げ、本当に女いた! ついてるな!」
声が聞こえてから逃げる準備をしても遅かった。
走り出そうとした手は、いとも簡単に酔っぱらい男に捕まってしまった。
アイリーンは抵抗を試みるもバランスを崩し、力ずくで資料室まで引っ張られていく。
ぼんやりと灯りが見える資料室の中には、他にも人がいるようで、瞳だけがキラリと光っているように見えた。
アイリーンは背筋にゾワリと冷たい何かが伝っていく、嫌な感じに襲われた。
資料室へと入ると、後ろで扉の閉まる音が聞こえた。
か、完全に閉じ込められた……!
絶望にも似た感情がアイリーンの心に広がっていく。
「お、可愛いね。名前は?」
「言いません! 離して!」
「冷たいなぁ。いつ死ぬかも分からない環境なんだよ?楽しくいこうよ。」
「ちょっと、どこ触ってるの!? 離しなさい!」
「嫌だ。離しません。」
後ろから男が抱き締めてくる。
その手はアイリーンの胸を厭らしく触る。
耳元に寄せられた口から聞こえる声も、触ってくる手の感触も、何もかもが気持ち悪い。
アイリーンは涙目になりながら、必死に抵抗する。
「あんまり暴れないでよ。楽しもうって、ね?」
もう一人の男が、アイリーンの頬に手を添える。
暗くて相手の顔はぼんやりとしか見えないが、ニヤニヤとだらしない顔をしているのは分かる。
「ちょっと、なにを………んー!」
こ、こいついきなり……!
頬を触っていた男が、不意にアイリーンに口付けをした。
やっぱりこうなってしまうの……!?
あの噂は本当だったの……!?
アイリーンは思いっきり顔を横にずらして、男の唇から逃れる。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い……!
「もう本当に離して!」
「だめだって。」
「ちょっ……んっ」
今度は両手で顔を固定される。
どれだけ顔を振っても逃げられない。
先程よりもよりねっとりと男はアイリーンの唇に吸い付いてくる。
もう、逃げられないの……?
諦めにも似た感情がアイリーンの身体を支配していく。
ぎゅっと瞑ったアイリーンの目から、一筋の涙が溢れた。