第36章 私は
りんごを乗せた皿を、じっと見つめるリクの姿に、サスケは満足した。
『ありがとう…!いただきます!』
シャクシャクと音を立てて、りんごを食べるリクの姿に、頬が緩む。
(よかった、体は本当に何もなさそうで…俺、思ってる以上にリクに惚れてるな。)
リクが目を覚まし、こんなに安心した日はない。
誰かの笑顔を見て、こんなに満足した気持ちになった事はない。
『美味しい〜。はい、サスケも!』
そんなことを思っていると、リクが口元にリンゴを差し出した。
これも無意識なもんだから、堪ったもんじゃない。
(まあ、悪くもないか。)
よく分からない結論に至った俺はリクの手首を掴み、リンゴを食べた。
そして、やってから、なんて恥ずかしい事をしたんだと反省する。
「う、うまい…な。」
『そ、そ、そ、そうだねっ!』
リクも、自分のした事にやっと気付いた様で、二人揃って赤面した。
そして耐えれぬ空気が流れ、とうとうサスケは立ち上がり、扉の方へと向かっていった。
「な、ナルトとサクラに、リクが起きたと伝えてくる。あいつらも心配してたからな。」
『う、うん!ありがとう、待ってるね!』
私はブンブンと手を振り、その背を見送ったのち、小さく息を吐いた。
(心の中にサスケが出て行って、不安と安心という、真逆の感情があった…。)
今の説明しがたい感情に驚き、胸に手を当てた。
(本当の…名前、記憶のこと、何も言えなかった。)
こんなにも、自分の名前を言うには勇気が必要なのか。
さっきのカカシ先生の言葉が頭をよぎる。
( うちはと、セイレーン。そうよね、狙われるのは必然よね。)
父さんも、母さんも大好きだった。
2人の血を引いたことが、辛いだなんて思った事はない。
憎むべきは、その血を利用しようとする今の忍界だ。
(木の葉にいても、名乗る事が危険だなんて。…私の敵は、木の葉の闇…。)
名乗る事が危険な理由は一つしかない。
母とソラを連れ去るよう命令したやつ。
兄さんにうちは抹殺を命令したやつ。
すべて木の葉の闇のせいだ。
ソラは深いため息をついて、サスケが2人を連れて戻ってくるのを待った。