第35章 知ってる
幻術の中にいた。
いや、幻術だけど
これは現実だ。
ここはうちはの集落。
真っ暗だった。
集落を走り回るが
冷たい肢体があちらこちらにあるだけ。
生き物一匹すらいないかのような静けさ
その中に恐怖の叫び声が響き
鮮明な血飛沫が舞う
そんな様子が繰り広げられる。
思わず目を背けたくなるほど
むごいものだった。
目の前で、人が死ぬ。
近所に住む、おじさんとおばさんが殺される。
愛する家族も
フガクさん、ミコトさんが殺される。
みんな、うちはのみんな、殺される。
兄さんの手によって。
…その兄さんの後ろにある、木の葉の影によって。
やめてと叫ぶ、少年と少女。
悲鳴をあげる少年。
逃げてと叫ぶ少女。
涙を流して走る少年。
霞む視界でそれを見送る少女。
知ってる。全部知っている。
あの、血の匂いも、恐怖も。
イタチ兄さんの心の痛みも。
全部、知っている。
サスケの幼馴染で、妹で。
そうだった…。
歌神リクじゃない。
私こそが…
『私が…、うちはソラ。』