第35章 知ってる
サスケは背中で気を失っているリクを見た。
彼女が起きたら、聞きたいことがたくさんある。
なぜイタチを知っているのか。
なぜ写輪眼を持っているのか。
お前、本当は…。
『……サスケ…。逃げ、て。』
突然に名前を呼ばれてどきっとした。
意識を失ってなお、こんな俺の名前を呼ぶのかと。
意識を失ってなお、俺を助けようとするのか。
カカシの部屋でリクが苦しんでいた時、俺はイタチを優先した。
リクを守ると決めていたのに、その為に力を得たと言っても過言じゃないのに…。
なのに…、苦しむ彼女をその場に置いて行き、イタチを選んだ。
挙げ句の果てに守られたのは俺の方だ。
イタチの術から、俺を守った。
己を犠牲にしてまで。
…また、彼女に守られたのだ。
愛する者に、大切な者に。
「こんな時まで…、俺の名前なんて呼ぶなよ…。バカ…。」
こんな情けないやつの名前なんて呼ぶなよ。
幼き頃、ソラが他国の忍の刃から俺を守った。
思い出したくもないあの日だって、ソラは俺を逃がそうと必死に叫んだ。
そしてソラを失った俺に、もう一度守りたいものを思い出させてくれたリク。
下忍になる前に約束した。
「俺がお前を守ってやる」と。
一緒に強くなって、これからもそうやって、互いに互いを守ろうと、強くなると思ってたのに。
結局俺は目の前の憎しみにとらわれて、守るといったものを何一つ守れない。
力のなかったあの頃と同じじゃないか。
自分が情けなくなり、チィと舌打ちをする。
…その時、リクの目から涙が零れた。
その涙は、イタチに魅せられた幻術のせいか?
それとも他の理由なのか?
ポロポロとリクの頬を伝ったそれは、ジワリと俺の方を濡らした。
溢れ出すその涙を拭ってやりたい。
けど、その資格が今の俺にはあるのか?
情けない、悔しい。
苦しい胸をぐっと握り、里へ向かう足を早めた。