第35章 知ってる
『…もうやめてイタチ兄さん!
これ以上サスケを、自分を傷つけないで!』
リクが俺とイタチの間に入る。
その刹那、イタチが万華鏡写輪眼の術を発動させた。
俺が受けるはずだった幻術は、リクが代わりに受けたのだ。
『いやぁぁぁぁぁあ!!!!』
リクが悲痛の声を上げ、倒れた。
ほとんど表情を動かさなかったイタチが、少し顔を歪ませたのように見えたのは、気のせいだろうか…。
「…イタチ!リクに何しやがる!!」
俺は立ち上がろうとするが、全身が痛む。
立ち上がることすらできない自分が情けなく、また、無力さに腹が立ち唇を噛みしめる。
イタチは床に落ちた団子の袋を拾い、そんな俺に近付いてきた。
「お前は弱い。何も守れない。何故だか分かるか?
…憎しみが足りないからだ。お前には、迷いがある。」
「…迷い?俺が?一体どういう…」
最後まで話しきる前に、床が急に妙な弾力を帯びた。
どうやら自来也が口寄せした蝦蟇の腹の中らしい。
「…鬼鮫、一旦引くぞ。」
「待て…っ!まだ、まだ終わってねぇ!」
俺の叫びは虚しく、イタチ達はその場を去るべく走り出す。
俺は体に鞭を打って立ち上がり、それを追おうとした。
しかし、自来也という男に腕を掴まれた事によって防がれた。
「お前が待て。その身体では何も出来ん。
それに、己を身代わりにお前を守ったその娘を、お前は置いていく気か?」
自来也の指差す方をみる。
壁にもたれかかり、気を失っているリクの姿。
何があっても守りたかった、大切な、愛する人。
イタチを追いかけようとしていた俺の足は、自然と止まっていた。
「…………。」
不穏な漆黒の炎の奥から覗く蒼天と、そして気を失ったリクを見比べる。
闇しかなかった俺の世界を、鮮やかに彩ってくれたリク。
この黒炎が作り出した穴から見える、青い空の美しさを、俺は知っている。
リクが与えてくれた、美しい空色だった。
俺は胸の辺りの服を握り締めた。
そして、生気の感じられない彼女に歩み寄り、その頬に触れる。
…頼む、目を覚ましてくれ。
そして、美しく澄み渡る広く〈蒼い空〉に輝く〈太陽〉のように…
もう一度、笑ってくれ。