第1章 始まり
「貴方たちがセイレーンである事は分かっています」
ハルは繋いでいた手をさらに強く握り、その男を睨みつけた。
ソラの心臓は、ドクンと嫌な音を立てた。
"セイレーン"という言葉に反応する母。
つまり、それはハルとソラの事を指していると、理解するために時間はかからなかった。
今まで気付かれていなかった。
いや、怪しまれていても一歩踏み出せなかったのは、セイレーンかどうかハッキリしなかったからである。
(約束を破って、さっき歌ったから…?)
あれだけ歌うなと、約束したのに、それを破って歌ってしまったから?
フルフルと震える体を落ち着かせようと、ハルの腕にしがみついた。
「クソ…ッ!」
ハルは唇を強く噛み、血が出ていた。
(ごめんなさい、ソラのせいよ!)
そう言おうとした瞬間、突然体が浮いたかと思えば、地面に叩きつけられた。
「ソラっ…!逃げなさい!そして父さんと、フガクさんに、この事を伝えなさい!いいわね!」
ソラは、投げられたのかと納得する暇もなく、ハルのものすごい気迫に圧され、コクンと小さく頷いた。
そして、うちはの集落へ走る。
怖くて、振り返ることもできなかった。