第30章 中忍試験・絆
『やめて…サスケ…!』
震える声で呼んでも、彼は振り向きもしない。
…私の声が届いていないかのように。
遠くに行かないで。
自分の闇に飲まれないで。
もう何も傷つけないで。
私を手を握ってくれる手は、優しい手であってほしい。
だからもう、その手を汚さないで。
いろんな想いがある。
それを言葉で伝える代わりに、リクはサスケの元へと歩みを進める。
フラついても、つまづいても、転けても、何かにぶつかっても。
必死に彼の元へ。
そしてやっと辿り着いたサスケを、背後から包み込んだ。
『サスケ、お願いよ…もうやめて…。』
振り返る彼の写輪眼は、狂気に満ちていたけれど、まっすぐと彼の眼を見つめた。
「……リク…。」
私の名を小さく呼んだ彼は、写輪眼を閉じた。
そして、呪印がどんどん引いていく。
身体にまとわりついていた紋様が全て消えた時、サスケはふらついた。
それを支えるように座らせる。
「リク…?」
『大丈夫。大丈夫だから。』
私の名を呼ぶサスケの声は、いつもの通り温かい。
サスケの纏うチャクラが、何時ものように温かい。
リクは、そんな元に戻ったサスケをぎゅっと抱きしめた。
…悪夢のような時間だった。
サスケがいなくなる嫌な予感。
それがグルグルと身体の中を渦巻いていた。
怖くて怖くて、苦しい気持ちで。
抱きしめたのは、サスケに『大丈夫だ』と、『安心していい』と、伝えるためだったのに。
私は声を出して泣いてしまった。