第15章 ガーネット
「これが…忘れ物…?」
「そう…俺の忘れ物…」
「そっか…」
くすくす笑うと、俺の胸に顔を埋めた。
「こんな忘れ物…皆の前で渡せないじゃん…」
「だから取りに来たんだよ」
そっと身体を離すと、背を向けた。
「ありがと…忘れ物、今度持ってくる」
「え…」
ドアノブに手を掛けると、開け放った。
「じゃあね」
「待って…」
今度は俺が腕を引かれて玄関に引っ張り込まれた。
「…なんで引き止めるの…」
あなたには恋人がいるんでしょう…?
俺に何も言わず背中を向けさせる恋人が…
この期に及んで、まだ俺は駆け引きをする。
あの時感じた絶望がそうさせるのか…
それとも身も心も手に入れたいという欲望なのか。
むき出しの心でぶつかっていくには、あまりにもこの人との距離が近い。
こんなに近くにいるのに、手に入らない。
でも手に入れたい
「だって…」
またパタンと音を立てて玄関ドアが閉まった。
「そんな顔するんだもん…」
優しく俺の顔を手のひらで包む。
「どんな顔…してる…?」
自分でもわからない。
「泣きそうな顔…してるよ…?」
こつんと額を付けると、ゆっくりと唇を近づけてくる。
目を閉じると、あなたの香りが漂った。