第13章 ピスタチオ scene3
それにしてもずっと無視されてる。
家のドアを開けて智が振り返りもしないで入っていった。
「……」
ドアがゆっくりと閉まっていく。
俺はどうすることもできず、パタンとドアが閉まるのを見ていた。
もう…いいや。
来んなって言ってたし、帰ろ…
別に…
いいもん。
…ホントは、今日…
智に全部、あげようかなって
もう一回、智に気持ち確認して…
どうしても抱きたいっていうなら
あげようって…思ってたんだ…
いいもん。
別に…
エレベーターがまだ居たから乗り込んで、1のボタンを押した。
「う…」
涙が滲んだけど、ぐっと奥歯を噛み締めて堪えた。
付き合って一年とちょっと経った。
智のことなんでもわかってるつもりだった。
でも…俺、わかってなかったんじゃん…
マンションのエントランスを出て、とぼとぼと大通りに向かって歩く。
タクシー捕まえて、家に帰ろう。
「ぐずっ…」
別に泣いてなんかないんだけど、ずっと堪えてるから鼻水まで出てきた。
大通りに出たらすんなりと空車のタクシーが来た。
こんな時間にすんなり捕まるのは珍しいなあと思いながら手を上げた。
乗り込んで行き先を告げると、深くシートに沈み込んだ。
目を閉じたら、智の家のドアが瞼に浮かんだ。