第12章 ピスタチオ scene2
1時間以上、そのままの状態でいた。
誰も話をしようともしない。
ただ、時が流れていく。
何もできないけど、俺の膝で丸まって眠ってる和也の背中をずっと擦り続けた。
中にいるのは黒だってわかってるけど、少しでも身体が元気なればと思って…
チーフマネが時々部屋から出ていって、廊下で電話をしている。
仕事の調整をしているんだろう。
もしかしたら、和也は暫く仕事ができないかもしれない…
今日の収録だって飛ばしてしまったし、穴埋めに大変なことになってるんだろうなとは想像できた。
事務所の連中と、俺たちのマネたちが必死で調整してくれてるはず。
廊下をパタパタと奥さんのスリッパの音が聞こえたかと思うと、どすどすっと音が聞こえて応接間のドアが開いた。
「たいへんお待たせを…」
行長先生が息を切らしながら部屋に入ってきた。
先生は挨拶しようとする俺たちを制して、すぐに和也の横にしゃがみこんだ。
三つ揃えのスーツのジャケットを床に脱ぎ捨てると、眠っている和也の額に手を当て暫くそのまま目を閉じた。
時間が凄く長く感じた
漸く顔を上げた先生は、俺を見ると首を横に振った。
…やっぱり…和也は居ないんだ…
行長先生が見たら、もしかして…そう期待した心が急激に萎んでいった。