第11章 珈琲色
こそこそしながら、今度は外科の病棟にきた。
さっきまーちゃんが回診してたけど、こっちも回診の時間なんだよね…
小児科はそんなことないんだけど、こっちは…
居た居た。
…大名行列みたいなんだよなあ…
和也を先頭に外科の先生たちが束になって歩いてて、その後ろには外科の看護部長や主任さんまでいる。
外科は和也立っての願いで、ベテラン先生たちとこうやって回診するのが習慣になってる。
白い巨塔みたいだから、僕は嫌なんだけど…
やっぱりベテラン先生たちと居ると勉強になるし、自分の担当以外の患者さんの様子も知れるし、自分の知らない症例の勉強も実地でできる。
無駄なことの嫌いな和也がこれを率先してやるってことは、やっぱり外科医師として必要なことだからで…
「クランケ(患者)の身体に出てる浮腫が気になるね…和也先生…」
「あ…それについては昨日、処方した薬が…」
和也がカルテをベテランの医師に見せた。
「うん…いいと思う。よくクランケの観察ができてる」
普段は天邪鬼なとこもあるけど…こういう時、和也は人誑しなんだよね…
「ありがとうございます」
にっこり微笑むその笑顔…小悪魔だ…
なのに患者さんを診る顔はちゃんと医者の顔になってる…
ああ…成長したなぁ…
「頑張れ…和也…」
あんまりもたもたしてると大名行列に見つかるから、早々に退散した。
「よし…じゃあこれで最後だ…」
内科の外来診察室に向かう。
今日は午前も午後も外来だって言ってたから…
「あれ?さと先生…私服…」
内科ナースのエイコさんが不思議そうに僕の顔を見た。
「しー。今日は非番なんだ。忘れ物届けに来たの。翔くん居る?」
「さっき、午前の診察が終わったとこで…」
「ええっ…もう3時だよ…?今日はいそがしかったんだね…」
「千客万来でした…今、お疲れで仮眠を取ってらっしゃるので…」
エイコさんは黙って裏の処置室を指差した。
そこはたまに僕がお世話になってるとこで…
時々ここで点滴なんかしてもらったり…
翔くんにあんなことやこんなことされたり…
「わあっ…」
いかんいかん、今そんなこと思い出してる場合じゃない。
「さと先生?」
「ん…なんでもない…」
「もうすぐ午後の診察始まるので、起こしていただけますか?」
そう言うと、笑いながらエイコさんは1診から出ていった。