第11章 珈琲色
「…みほちゃんは、アンパンマンが好きだったよね?」
「えー?まさき先生、それ古い~。みほ、今、アイマスだもん」
「あ、あいます?」
「知らないのお?おっくれてる~!」
小さいながらも女の子ってさ…女だよねぇ…
まーちゃん、たじたじ…
「わかったよ…あいます、ね?今度勉強しとく…」
「あ。お薬は苦いの出しちゃいやよ?」
「だーめ。苦いお薬飲まないと良くならないでしょ?」
「ええ~…?」
カルテに書き込んでいた手を止めると、まーちゃんは優しく微笑んだ。
「もう、9歳なんだから…我慢できるよね?赤ちゃんじゃないんだから」
すっと真顔になった。流石に呼吸を心得てる。
みほちゃんは途端にしゅんとした。
「はあい…」
まーちゃんはみほちゃんのお布団を掛け直した。
「ちゃんと先生のいう事聞いてたら、早く退院できるんだから、頑張ろうね」
「うん…」
今度はまた柔らかく微笑んで、優しく布団の上からみほちゃんの胸を擦った。
流石だな…
「頑張ってね…まーちゃん」
そっと病室の入り口から離れた。
…外科にあんなおませな子が来たらどうしよう…
あいますって…なんだろう…
見つからないように、今度は救急救命センターの方へ足を向けた。
こっちには…
いきなり、アラート音が聞こえた。
かと思ったら、救急の制服を着た看護師さんたちが飛び出してきた。
「あっ…すいません!さと先生!」
僕にぶつかりそうになりながらもなんとか避けていってくれた。
時間外入口に向かって走っていってるから、急患が来るんだ。
そっと救急のブリーフィングルームを覗き込むと、潤くんがPHSで話しながら、これから来る患者のことかな…そこにいる先生たちと話し合ってる。
「血圧は?」
細かい数値を聞きながらホワイトボードに書き込んでいってる。
「んー…これだけじゃ所見出せるわけ無いだろ…ご家族にそう伝えて」
ばっさりと切り捨てるように言うと通話を切った。
「患者は胸を押さえて苦しがって意識をなくしたとのことで…」
今日は輪番のベテラン先生たちお休みみたいだな…
潤くんが仕切ってる。
本当は優しすぎるくらい優しいのに…一番厳しい救急の現場を選んで邁進してる姿は、我が弟ながら本当にカッコイイと思う。
「…頑張れ…潤くん…」