第11章 珈琲色
昔と違って張店で着飾ることもないから、髷も結ってない。
あったら抱かれる時、邪魔だから…
洗いざらした髪を後ろでくくってあるだけ。
そんな格好してるの俺だけだから、珍しがって客は抱きに来る。
「皆も工夫すればいいのにね…」
「ん…?」
櫻井さんの腕に抱かれながら、思わずひとりごちていた。
「あ…なんでもない…」
どうしてか、櫻井さんと居ると気が抜けてしまうみたいで…
「何を工夫するんだい?」
そんなこと、優しい目をして聞かれたら思わず答えてしまうわけで…
「うんとね…俺が髷を結わないから、お客さんは珍しがって抱きにくるだろ?だったら、他の奴らも俺のこと妬んでないで珍しいことすればいいんだ…って思ったの…」
「ふ…智は、ほんとにそう思ってるの?」
「…なにが?」
そっと櫻井さんは俺の髪を撫でた。
「それだけで客が智を抱きに来るって思ってるの?」
「…どういうこと?」
床が上手いとは言われたことはあるけど…
そんなの皆、とっくに工夫してるし…
ここに居る皆は十を過ぎて売られてきた人ばかりだから。
皆、そういうことの技量は十分仕込まれてるわけで…
俺だって松にいに散々仕込まれたんだし…
「皆、智に会いたいから来るんだよ…?」
「え?俺に…?」
「そう…ひと目でいいから、会いたいんだよ…」
そっと布団の中で握っていた手を出すと、俺の指に口付けた。
「皆…智が欲しいんだ」
「え…?」
俺が、欲しい…?
だって皆、俺のこと抱いてるじゃないか…
これ以上、何が欲しいっていうんだろ
「櫻井さんも…俺が欲しいの…?」
「俺…?」
口付けた指を櫻井さんは掴み直した。
「欲しいに決まってる」