第11章 珈琲色
収録の合間、スタンバイ中の前室でおーちゃんに話しかけてみた。
「ね、今度の映画の役ってどんなの?」
「ん…?まあ…」
いつも通りの曖昧な返答。
「とても…難しいよ…」
「へえ…おーちゃんでも悩むんだ」
「…悩んじゃいないかな…」
「そうなの?」
話してる間も、おーちゃんは俺を見ようとはしない。
遠くのほうを見つめて、視線を漂わせてる。
「…疲れてるの?」
「別に…?」
…やっぱり、変だ…
前にもこんなことがあった。
あの時は初めての主演ドラマで、しかもあんな重い役で。
でも、こんなに遠い目をすることなんてなかった。
「おーちゃん…?」
呼びかけても、俺を見ない。
なにかを見たまま微笑んでる。
気になってその視線の先を辿ると、そこには大きな姿見があった。
よく見ると、俺とおーちゃんが映ってた。
「…なに…見てるの…?」
「えー…?なにも…?」
いや…見てる…
「おーちゃん…?」
見てるよ…
「何も見てないって…」
おーちゃんは、自分をずっと見てる――
「ちょっと相葉さんどうしたの?」
ニノが前室の出口で肩を掴んできた。
「真っ青よ?大丈夫?」
「うん…」
心配そうな顔で見つめる瞳には、俺が映ってた。
「ニノ…おーちゃん、おかしくなったかも…」
「え?」