第9章 ミント-before-
ぐにゃりと大野さんの表情が歪んだ。
「だいたいなんなのよ…いつもいつも俺なんか俺なんかって…あんたそんな気持ちでいつも仕事して…今まで蹴落としてきた連中のこと何だと思ってんの?」
「蹴落とす…」
「そうだよ…事務所やめていったやつら…売れなかったやつら…俺達はそんな奴らの屍の上に立ってんだよ」
こんなこと…言いたいんじゃないのに…
初めての主演ドラマで不安になってるんだろう。
だから、大丈夫だよって…
本当は言ってあげたいのに
「あんたがそういうこと言うのは…裏で血を流してきた連中に失礼なんだよっ…」
俺もその中のうちの一人だなんて、言えない。
この人の持ってる才能は、俺にはないもので。
多分俺が一生持ち得ないもので。
役者をやっている連中からしたら、喉から手が出るほど欲しいものなのに…
それなのに辞めたがって…逃げて…
「卑怯者…」
こんなこと…言ってもなにもならないのに…
止まらなかった。
「一生そうやって逃げ回ってればいいだろ!?」
「ニノっ…」
突然腕を引かれて大野さんの胸に抱きとめられた。
「な…なんだよっ…離せよっ…」
「ニノ…」
「離してっ…」
苦しいくらい抱きしめられて、息もできない。
「なんで…泣くんだよ…」
いつの間にか涙が頬を伝っていた。